バートには、多くの友がいる。
頻繁に敵と味方を入れ替えて戦う傭兵の世界では、珍しいことだ。
バートは、ごく自然に、誰とでも友になれる稀有な人間だった。
そんな彼が、あるとき、ひとりの傭兵と出会った。
まだ駆け出しに見えるその傭兵に、バートは、他の人間にはないものを感じた。
力強い意思を秘めた目が、真っ直ぐにこちらを向いている。
その人物が持つ「何か」が、バートを捕えて離さなかった。
「あいつには負けたくない」
バートは、いつの間にかそう考えている自分に気づいた。
彼の中で、その傭兵は「友」から「ライバル」へと変わっていった。
そう意識した時、バートは悟った。
初めて会ったとき、彼を捕えて離さなかった「何か」。
それは言い知れぬ、人としての「大きさ」だった。
バートはかつて、別の人物に同じものを感じたことがあった。
「伝説の傭兵」ジョン・ホークウッド・・・。
バートが傭兵を志したきっかけ、そして、いくつか越えるべき目標。
だから・・・負けたくない、と思うのだった。
それからバートは多くの戦場を巡った。
それなりの名を得たと、自負できるようになった。
だが、それ以上に「ライバル」の活躍は目覚しかった。
そして、ついにバートは、「ライバル」に直接勝負を申し込んだ。
勝負は、バートの完敗だった。
しかし「ライバル」が全力で戦ってくれたことを、バートは嬉しく思った。
「ライバル」もまた、自分をライバルと認めてくれたからだ・・・。
そのことに報いるためにも、負けたままではいられない。
バートは、改めて、奮い立った。
それから時を経て、日々研鑽を続けるバートに、衝撃的な知らせが届いた。
「ライバル」が、傭兵の身でありながら、将軍になったらしい・・・
そう、酒場のマスターがいつか語った、あの「傭兵将軍」にだ。
同じ傭兵として嬉しい反面、「差をつけられた」という思いも強かった。
さらなる努力を続けるバートだったが、「ライバル」は、その上をいっていた。
あの「伝説の傭兵」ジョン・ホークウッドを激しい戦いの末に打ち倒し、ホークウッド自身から「伝説の傭兵」の称号の後継者として名指しされたというのだ・・・。
この噂を聞いたときは、さすがのバートも落ち込んだ。
無理もない。夢を、そして目標さえも失ったのだ。
だが、そこでバートの脳裏に浮かんだのは、初めて「ライバル」とあった時に印象に残った、あの力強い意思を秘めた目だった。
やはりあいつは、普通の傭兵で終わる奴じゃなかった。
それを予想していた自分の正しさが証明されたことに、バートは、満足した。「まだ、終わったわけじゃない。今度は、あんたが目標だ」
そう「ライバル」に宣言するバートの目にも、同じ力強さが宿っていた・・・
-おわり-
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