ディアーヌは、親を知らない。
まだ赤ん坊のころ、戦場に捨てられていたからだ。
たまたま、親切な傭兵に拾われて、それからはずっと、戦場で暮らしている。
強いて言えば、「戦場が親」だ。
荒れくれ者の間で育ったためか、ディアーヌは負けん気が強く、口が悪い。そのせいで、問題を起こすこともしばしばである。
だが、そういったことも含めて、ディアーヌは傭兵の生活に愛着を感じている。
そんな彼女が、単身離さず、大切にしているものがある。
金色の百合をかたどったペンダントだ。
幼い彼女といっしょに戦場に捨てられていた、実の親の形見だという。
口では「親など、どうでもいい」と言うが、まだ若いというより幼い年頃の娘だ。
心のどこかには、やはり、本当の親への思慕が揺れているのかもしれない。
あるときディアーヌに、さる大貴族から伝言が届いた。
「そなたこそ、戦乱で行方知れずとなっていた我が娘だ。
その金百合のペンダントが、何よりの証拠。
迎え入れるゆえ、戻ってくるがよい」
ディアーヌは、貴族の娘であった・・・
しかし、彼女は、その申し出を一蹴した。
そもそも、傲慢な物言いが気に入らないし、大好きな傭兵の生活を辞める気もなかった。
やっと消息を掴んだ娘のことを諦めきれず、再三再四連絡を取ろうとする貴族に、ディアーヌは辟易してはっきりと拒絶を示した。
「野生の百合は、手折らば枯れる」
これを耳にした貴族は、ディアーヌのことを不憫がりながらも、ついには諦めた。
ディアーヌは、うそぶく。
自分は、戦場に生き、戦場で死ぬ・・・「戦場の子」なのだと。
そこに強がりはなかった。それがディアーヌだった。
-おわり-
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