長く続く戦乱の最中、絶望ではなく希望を感じるものもいる。
自らの力を世に示さんとする者にとって、燃え広がる戦火は絶好の機会だからだ・・・。
イングランド王国ウェールズ地方の少女が、大陸の戦線に加わろうとしていた。
名はマーガレット。
容貌に幼さを残しながらも、ウェールズ伝統の長弓の扱いには並々ならぬ自身を見せ、「黒太子エドワード殿下の軍だったらあたしの弓に見合う」と一国の王太子を相手に、「自分に見合う」と言ってのける大胆さに若さゆえの驕慢が匂う。
しかし、マーガレットの願いは思わぬ形で頓挫する。
「若い女であること」を理由に、イングランド軍への参加志願を却下されたのだった。
正当に力量を評価されるための機会すら、満足に与えられなかったことに憤ったマーガレットは、自身の力を黒太子エドワードに、ひいてはイングランド軍全体に認めさせるため、ある策を講じた。
傭兵を雇い、戦場に出たマーガレットは、奇妙にも見える戦い方をとった。
雑兵には目もくれず、身分の高いフランスの貴族だけを付け狙い、執拗に矢を射る。
「ウェールズのマーガレット」の名を高々に名乗り上げながら。
彼女が戦場に響かせて回る「ウェールズのマーガレット」の名は、まず傭兵たちに強い印象を与えた。
噂を聞きつけた傭兵たちに囲まれたマーガレットは、貴族ばかりを狙う理由を問われ、こう応えた。
「衆目を引くためだ。」と。
「一番偉い人」に、自分の能力を見せつけるためだと。
マーガレットは笑みを浮かべていた。
傭兵たちに自分の名が知れ渡ることこそ、講じた策が実を結ぼうとしていることの証左に他ならない。
じきに「一番偉い人」にも、「ウェールズのマーガレット」の名が届くことになろう。
本拠地がボルドーへの足場となる要街トゥールーズからフランス軍を駆逐するため、黒太子エドワードが直々に軍を発した。
これを聞いたマーガレットは、待っていたとばかりに奮い立つ。
勇んで参戦したトゥールーズの戦闘で、序盤に弓の力が求められる局面が訪れたことは、マーガレットにとって最大の僥倖だった。
黒太子エドワードの前に進み出たマーガレットは、誇らしげに名乗り上げる。
「ウェールズのマーガレット」の名は、黒太子エドワードにも聞こえていた。
貴族ばかりを狙い討つ長弓の名手で、少女であるということも。
我が息を得たとばかりに、マーガレットは黒太子エドワードに伝える。
この弓で戦局を打開できた暁には、正式に軍に登用してほしいと。
結果、長弓の力を十全に発揮し、戦果を残したマーガレットは、黒太子エドワード直々に、イングランド軍への参加を請われる。
その申し出を恭しく受けたマーガレット・・・この辺境の射手は、己の力にふさわしい処遇を受けるという願いを、ここに成就させたのだった。
-おわり-
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